| 赤城恵子(あかぎけいこ)さんは、心理カウンセラーとしてはもちろんのこと、不妊カウンセラーとしても幅広いご活躍をされていらっしゃいます。 ご自身の不妊経験と豊富な知識を基に行なわれるカウンセリングは、愛と思いやりとユーモアに溢れ、不妊に悩む多くのカップルから支持を得ています。 不妊というデリケートな問題を扱う難しさや、カウンセリングとは何かということについてお話を伺ってきました。 |
|
女性も苦しいし、黙して語らない男性もまた苦しい
|
![]() 「このお仕事を始められる前の経緯からお聞かせください。」
70年代にデザイン学校を出てから出版社に入り、雑誌のレイアウトやイラストの仕事をしていました。 26歳でフリーになって出版社や広告代理店から仕事をいただいていましたが、29歳の時にほとんど妊娠の可能性のない不妊と診断されました。さらに大病を患って入院してしまい、仕事を辞めざるをえなくなったのが36歳の時です。 「やはり過労からだったのでしょうか?」
そうですね、出版の仕事は徹夜になることも多いですからね。雑誌のレイアウトは編集の最後の作業で、写真や原稿がどんなに遅れても急いで仕上げて、締切日に印刷所に入れないと発行日に間に合わないものですから、気分はいつも「急げ、急げ」でした。 そこに不妊という心理的なダメージも加わって、相当ストレスフルな状況だったと思います。 私が若い頃は、断続的にでも仕事を続けながら2、3人の子どもを育てていこうという、いわば生き方のシナリオがあったんですね。 ところが病気と不妊で仕事も子どもも失って、白紙状態になってしまったわけです。すると将来がまったくイメージできなくなって、「私はだれ?」「私はどこへ行くの?」といった状態でした。 「どのような経緯でカウンセラーになられたのですか?」
その後大学に入って心理学や文化人類学、女性学などを学びました。卒論のテーマに不妊を選んで、不妊の歴史を紐解いてみたり、当事者の方へのインタビューを続けていたんですね。 するとやはり、「子どもを産むべき」という無意識の強い社会規範がある中で不妊に直面することは、生活面でも心理面でも危機的なのだと解りました。 しかもとても苦痛で、経済的にも大変な不妊治療を受けても、子どもが授かるカップルは半数ほどと言われています。 半数の人は喪失感や不妊で受けたトラウマを抱えたまま、養子を迎えるか子どもをもたない生き方を考えなくてはならないんですね。ですから医療だけではなく、メンタル面でのサポート体制も絶対に必要だと思っていました。 ちょうどそんなとき、1991年に不妊の自助グループ「フィンレージの会」がスタートしました。発起人の1人に声をかけられて、私も迷わず運営スタッフの1人になった次第です。 「どのような方が参加なさっていらっしゃるのですか?」
不妊治療のストレスにさらされながら、子どもをもたないことに対する周囲の干渉や圧力、パートナーや親に対する罪責感などに悩んでいる人がほとんどでしたね。 話し合いの場が開かれて、私はファシリテーターの役割をしていました。私も当事者とはいえ、カウンセリングのスキルを身につけていないと相手が楽にならないばかりか、傷つけてしまう危険もあると思ったんですね。それがカウンセリング講座に通うきっかけになったわけです。 「カウンセリングについては、専門的に学ばれたのですか?」
机上で臨床心理学を学んでも実践的に学ばなければどうにもならないと思い、カウンセリング機関のカウンセラー養成講座に4年ほど通いました。でもその頃は自分がカウンセラーになるとは考えていなかったですね。 その後、試験に合格して認定を受けましたので、そのカウンセリング機関のカウンセラーとして仕事を請けるようになりました。 それとほぼ同じ頃、東京都が女性の生涯を通じた健康支援事業の一環として不妊相談センター(不妊ホットライン)を設置したんですね。縁あってそちらにも携わることになりました。今から10年ほど前のことです。 その後、自分のカウンセリングルームも開きまして、不妊だけではなく、いろいろな問題に悩む方たちのお話もうかがうようになりました。 「お客様の男女比はどのくらいでしょうか?」
私が所属している外部のカウンセリング機関では男性のケースが多いのですが、ここでは女性だけです。トータルで見ても女性が圧倒的に多いですね。 「男性は受けられていないのでしょうか?」
こちらは「女性のためのカウンセリングルーム」として開いていますので、男性が単独で申し込まれた時は、外部のカウンセリング機関をご紹介して、そちらでお話をうかがうことにしています。 女性のクライエントさんから「夫のカウンセリングもしてほしい」と依頼された場合や「夫婦一緒に」という場合はお引き受けしています。 「カウンセリングに来られる男性はご自身に不妊原因がある方がいらっしゃるのですか?」
その例はとても少なく、お1人だけでした。自分に原因があると診断された男性もショックを受けたり、無力感や自責の念に悩んでいるのですが、その思いを率直に語る人は本当にごくわずかです。 やりきれない気持ちを表出できれば、ストレスが軽減されて夫婦関係もずいぶんらくになると思うのですが、男性としての抵抗があって心を開くのはとても難しいのだと思います。 原因は夫にあって自分にはないという妻の立場も複雑です。泣きたいほど辛い時でも「夫が責められていると感じてしまうから家では泣けない」という人もいます。「つい、あなたのせいだと夫を責めてしまう」と自己嫌悪に苦しんでいる女性もいます。 原因がなくても苦痛な医療を受けるのはほとんどが女性ですし、「子どもを産んで育てるべきだ」という圧力を受けるのも女性の方が圧倒的に多い。 ですから女性も苦しいし、黙して語らない男性もまた苦しいんですね。その人の尊厳を失わせない安全なカウンセリングの場を活用して、少しでも心の重荷を軽くされるとよいのですが。 「原因を持っていない男性がカウンセリングに訪れる理由は何でしょうか?」
体外受精を何度受けても妊娠しない、流産を繰り返しているといった場合、女性が悲嘆にくれても無理のないことです。そんな時、「妻のサポートをどうすればいいのか分からない」という理由で来られることがほとんどです。 こんな時は男性のやりきれない思いも十分に受けとめて、パートナーの女性の気持ちや必要なサポートについてお話しています。 ここで気づいたのは「泣いたらストレスになる」と考えている男性が少なくないことでした。ある人は流産後の妻に「そんなに泣いていたら、ストレスになって妊娠できなくなるって叱るんですけどね」とおっしゃるので、「気の澄むまで泣くことは、逆にストレスを軽くしていきます。 『これで楽になっていくんだな』とプラスに受けとめて、励まさないでそっとそばにいてあげてください」とお願いしています。アメリカの医師も同じようなことを家族に伝えているそうです。日本の病院でもそんな配慮があるといいですね。 「やはり男性と女性の考え方の違いなのでしょうか?」
そうでしょうね。男性は小さい時から、泣けば「男の子のくせに」とか「男らしくない」と言われ、泣くのを禁じられて育つことが多いですから、感情を表に出すことをつい否定的にとらえてしまうのかもしれません。それはそれで辛いことですね。 女性はそれを比較的許されていますから、自助グループなどの横のつながりもつくりやすいのではないかと思います。 |




