今回のインタビューは、株式会社スピーキングエッセイ取締役講師代表の大嶋 利佳(おおしま りか)先生です。
大嶋先生は、日本語学校講師を経て、現在は「話し方」や「ビジネスマナー」の研修講師をされています。『なぜあの人の話し方は「強くて美しい」のか? 』をはじめとする著書も多数出版されています。 独立開業から現在に至るまで、さまざまなご縁やチャンスがあり、それに巡り会えたのはご自身の「日本語の力」が大きかったとのこと。 なぜ日本語の力があるとチャンスをつかむことができるのか? これまで実績を積み上げてこられた経緯、そしてこれからの展望について伺ってきました。 |
「『言葉の力』に何度も助けられて」
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![]() 「日本語教育に興味を持たれたきっかけをお話いただけますか?」
大学を出て、海外で少し過ごしました。最初ヨーロッパに行き、その後短い期間ですが東南アジアにも行きました。今で言う「自分探し」です。 当時から日本語教育に関心があったので、ドイツで日本語教師の助手として働きました。今から20年ぐらい前は日本に外国の方が仕事や勉強でたくさん来られていた時期で、日本語学校も大変流行っていまして、その時に日本語教育を始めました。 その経験を積み重ねていって、母国語である日本語に非常に関心を持ったということが、今の仕事に興味を持つきっかけでしたね。 「現在のお仕事を始めた動機を教えてください。」
ヨーロッパで日本語を学ぶ人たちと、東南アジアなどの比較的発展途上国で日本語を学ぶ人たちの間に大きな動機の差があるのです。 例えば、ドイツの高校生で日本語を学ぶ人たちに「何故日本語を学ぶのか?」と質問すると「私はもう、フランス語もイタリア語もラテン語もできる。難しいことをやってみたくなったので日本語を始めた」と。 ところが、発展途上国の方たちですと、日本語ができないとお給料が減らされるとか、働くところがないとか、本当に生まれた国によって切実な事情があることを痛感しました。 反面、私自身の現状は非常に恵まれているわけで、それをどう生かしていくのか、また日本語教育でどのようにお役に立つことができるのかを考えました。 日本人が母国語をもっと大事にして、外国の方にもっと気持ちよく日本語を学んでいただける環境を創りたい。それが現在の展開の動機になりました。 「1988年の第1回日本語教育能力試験に合格されていますが、受験した理由は?」
実はその試験に合格する2年前から現場に出て指導をしておりました。その頃日本には、多くの外国の方が来て、日本語学校もたくさんできていました。 日本人なら誰でも日本語を教えられるでしょう?と思われるかもしれませんが、実際には十分な知識とスキルが求められます。 先生が大量に必要で、業界も文部省もそれに対して危機感を持ち、きちんとした公的な試験を作りましょうという気運が高まってきていました。そして1988年に第一回が開催されたのです。その試験は難しくて、試験の合格率は、2割を切っていました。 ちょうど、私は駆け出しの日本語教師の時で、今までやってきたことですので、すぐに受けて自分の立場をはっきりさせようと受験しました。 国語の教員免許は持っていませんが、大学時代はずっと文学・文芸学系ですので、日本語は得意でしたね。 「その後、今のお仕事をされるまではどのような経過だったのですか?」
その日本語教育をつきつめて勉強していき、専門学校の教員になりました。 生徒には留学生もいれば若い日本人の方もいらっしゃいます。 どうも様子を見るにつけ、最近の日本の若い方の日本語は、しっかり勉強をした外国の上級の方に劣るのではないか、日本語がかなり危機的な状況になっているのではないかと痛感しました。 日本人に対する日本語教育も必要だと思うようになり、そういうことから日本人に対する教育、特に「話し方」という方向に進んで行き、その後専門学校の教員を辞めて講師として独立して、会社を立ち上げて本日に至っています。 「日本語での失敗というのはありますか?」
実際外国の方と日本語でお話しすることは、非常に難しいです。何の気なしに言った一言が、大きな誤解を生んでしまうことがあります。 こういう例がありました。若い大学生の女性がある時とても綺麗な服を着ていたので、何の気なしに「あら、かわいいじゃない!」と言ったのです、そうしたら二度と口をきいてくれなくなりました。わかります?「かわいい」「じゃない」の「じゃない」を否定と受け取ったのです。 まだ日本語を勉強して浅い方は「じゃない」ということはNOTなのです。あなたブスねと明るく言われたと思ったのですね、これは怒りますね。相手を見て今どれくらいの言葉が話せるのか、この単語は知っているのか、この構文は知っているのか、と常に考えて話をしなければならない。 「日本語教育で気をつけていらっしゃることはありますか?」
それまで私自身、話し方教育というのを受けたことがありません。 ただ、外国の方に日本語をお教えする際に、いかに誤解をされないかとか、いかにわかりやすくお伝えするかとか、それは日本人と話す時にも非常に有効なのです。 私は日本語がぺらぺらですが相手の方は本当にたどたどしい。でも一生懸命話されます。 それをいかに汲んであげられて、相手の方が「ああ、自分はこんなに日本語がしゃべれて、大嶋さんとこんなに話せるなんて、日本語が上手になったのかもしれない」って思ってくれるような会話をしてあげたいと考えてきました。 「外国人に対する日本語教育の考え方が、日本人との会話でも有効ということですか?」
留学生の友人の結婚式で披露宴がありました。私は恩師として呼ばれて行ったのですが、隣に座った全く知らない年配の男性の方とお話したことがきっかけで、その方がお知り合いを3人も紹介してくださって、それぞれからお仕事をいただき、更にその方ご自身からも出資していただいたということもありました。 披露宴の席で、全くの初対面で年齢も違う男性でちょっと話をしづらい。そんな中で私は一生懸命話しかけていました。 披露宴ですから、他の人のスピーチやケーキ入刀などありますから、ずーっとはしゃべれません。私はその方の会話が中断されたときには必ず会話を戻して話題が中断されたままにしないようにしました。それが大変嬉しかったということです。 そのテーブルにはその方のお知り合いはどなたもいらっしゃらなくて、私が他の方と盛り上がっていると、その方が寂しそうでした。お一人で寂しい思いをさせないようにと思いました。 それからもう一つ、その方は年配で非常に品の良い男性でしたので、感じの好い方だな、仕事でも成功されていて、面白いお話を伺えるんじゃないかなという気持ちもちょっとありました。 ![]() |