今回のインタビューは、コミュニティファシリテーション研究所代表で 日本プロセスワーク協会会長の、廣水 乃生(ひろみず のりお)先生です。 先生は、プロセスワーク(プロセス指向心理学)のパラダイムやスキルを ベースに、「組織・グループ・コミュニティをいかに活性化するか、 いかに持続可能にするか」というテーマに取り組み、 研究と実践活動を続けていらっしゃいます。 欧米文化の中で育まれてきたプロセスワークを、日本文化の中で応用して いく「応用実践研究」が必要とおっしゃる廣水先生に、 プロセスワークの強みや、 「もめごと」(対立・衝突)のもつ「可能性」など について、お話を伺いました。 |
意図していることと、意図していないことの両方を大事にしていく |
![]() 「プロセス指向心理学の特徴を、簡単に教えていただけますか?」
僕が思うプロセスワークの特徴は、個人、人間関係、グループと、その形態を超えてプロセスに関わる視点・手法をもっていることだと考えます。もしかするとそれぞれの心理療法を極めていくとプロセスワークになり得るという人もいるぐらい、そのアプローチは多様ですが、人に関わる本質に迫る世界観をもっています。 「他にはいかがでしょう?」
また心理学でいう潜在意識のように、人間関係やグループなどに生起してくることを多次元的にとらえる視点も特徴のひとつでしょう。トレーニングでは、個人でいう目に見える行動や意識的なことの背後にある、目に見えにくいことや無意識的なことを、人間関係やグループでも取り上げていく感性を磨いていきます。 とは言っても、最近のプロセスワークのトレーニングについてや、日本のトレーニングの現場については分かりません。どんなことを教えてるのかなと、トレーニングを受けたことのある人達の話を聞くと、プロセスワークの根底は一緒なのですが、受け手側がどういう風に聞くかが大きく作用していて、受け手によって表現がだいぶ変わってくることが分かります。そこがまず混乱しやすい。 人に聞けば聞くほど分かりにくくなってくるのも、プロセスワークの特徴の1つかもしれませんね。教えている人達が間違ったことを言っているわけではなくて、それぞれの先生の話の傾向に特徴があり、それを学ぶ人のフィルターで語るせいなのかもしれません。 僕の周囲には、心理の方、対人援助の方、社会活動家、ビジネスマン、行政の方、学校関係者、困難な状況の人、ダンサーや医療関係者など、本当に多様な人達がいます。そういう方々と話していると共通する部分がたくさん見つけられると同時に、それぞれの方々が個性に応じた世界観で解釈をし、独特な言葉で語ります。 これはプロセスワークの多様性の現れ方のひとつで、特徴でしょうね。それは僕も同じで、僕の偏りの中で話していて、勝手な解釈をしている部分があるんだと思っています。 すごく単純に言うと、僕の考えるプロセスワークは、「意図していることと、意図していないことの両方が大事だよ」ということ。それだけです。この両方を大事にしていくと、流れに乗って進むんじゃないか、というのがプロセスワークの世界観です。 「それは、ゴールを持たない、ということとは違いますか?」
ゴールを持たないわけではない。ゴールを持つこともあるし、持たないこともある。 プロセスワークのややこしいところでもあるし、実態がつかみにくいところですけど、プロセスワークは、意図することと、意図しないことの両方が大事で、その両方を取り込めた時に、プロセスとして自然に流れの勢いが増しますよっていうことだと思うんです。 だけど、別に勢いを増させなくてはいけないわけではなくて、どっちでもいいんですよ。 ただ、プロセスワークの世界観としてはその両方が合流すると、プロセスが自然に進み出しますよ、ということ。それが分離した状態の時には、エネルギーがいろんな形で必要になるんじゃないか、というのが背景にある。 ゴールを持って進むこともあるし、持たないこともある。ゴールを持つことがいいか悪いかという議論は関係なくて、ゴールを持っている場合、それが1つの意図になります。そして、ゴールに意識を向け過ぎると、プロセスがそれに反するものを浮上させてくる場合もある。それが意図しない流れ。 そうすると、ゴールに意識を向け過ぎるあまり、それを取り込む作業ができないので、流れが滞り、進めるのに時間がかかることもある。その場合は、一時的にゴールを脇に置いて、意図するもの意図しないものの両方を合流させると、ゴールに向かって一気に加速することができる。なので、どちらの場合もありますね。 「先生のコミュニティファシリテーションとプロセスワークとの関係を教えてください」
ユング、ミンデル、ノリ(自分)、と並べた時に、何が自分をここまで推進してきたか。そのラインを見た時に、僕はプロセスワークが大好きだし、素晴らしいと思っているし、アーニー&エイミー夫妻(プロセスワーク創始者)も大好きなんだけど、僕をここまで推進してきたのは、プロセスワークに出会い触れてきた中で感じた、3つの課題なんです。 1つ目は、分かりにくい、つかみどころがないように感じる。例えば、箱庭療法がいいか悪いかという議論と、プロセスワークがいいか悪いかという議論は、だいぶ質が違っていて、プロセスワークは箱庭療法を機能化させるような力をもっている。 つまり、どういう方法論を扱うにしても、その背後でプロセスワークの世界観が下敷きに入ってくると、いろんなものが機能化するだろうと思っている。プロセスワーク最高だろう?と言いたいのですが、実は裏を返すと、箱庭療法をやっている素晴しいカウンセラー、セラピストの方は、実際このプロセスワークに近い世界観や態度を持っているとも言える。 言葉とか、バックグラウンドに持っている感じは、多くの人がプロセスワークに触れた時に、何か自分の流派の先生と同じにおいがする、同じことを言っている、ということが結構多い。背後にある世界観が、機能化する世界観であって、それを1つの形にしているのがプロセスワークです。 「機能化する世界観ですか?」
プロセスワークには表面的な方法論はあるようでない、ないようである。何でも屋なんです。機能性がすごくあるんだけど、目に見えない分、分かりにくい。でも応用可能性はかなり広範囲で、僕の言葉で言うと「世界平和への道」だと思っている。 僕が言う世界平和は、自分の心の平和と、身近な人との関係の平和から始まるんだという考えです。それを実現するのに、いろんなスキルが大事なんだけど、実はスキルよりも、ベースになる考え方や世界観にフォーカスしていく方が、おそらく早く実現できるだろうと考えています。 スキルの部分は、今までの人生でそれぞれが獲得してきているものが、そのまま活かせるのではないかと思っている。そのあたりのさまざまな流派との関連やプロセスワークの中にある概念・用語などの関連などをわかりやすく整理して、わかりやすく共有したいのです。 2つ目は、体得するのに時間とお金がかかるということ。 「お金がかかる、という課題ですか?」
心理業界は、どれもけっこうなお金がかかるのだけど、いわゆる職業セラピスト、カウンセラーは収入が得られるから、そのためにお金を払って学ぶのは自然なこと。でも僕は、プロセスワークは世界平和につながるものだから、多くの人に学んでもらいたい。 ものすごく高いお金でトレーニングするとなると、お金がある人は学べるけど、お金がない人は学べないということが起こってくる。これは、自分の推進したいことと矛盾しているんですね。学びたい人が好きなだけ学べるようにする、その知恵や恩恵をお金があるないに関係なく受けられる、ということがすごく大事だと思っている。 プロセスワーク業界もとてもお金がかかる。この業界が貨幣経済の仕組みの中で生き残っていくためには、当然お金を回していくのは必要なことだし大事な側面でもある。だからといって問題ではないとは言えない。お金の問題を超えて、どうやって多くの人と共有できるかというのが課題の2つ目です。業界を壊さないために別の道を作りたいと考えました。 「3つ目の課題は、何でしょう?」
3つ目は、分かりにくいということにつながっているのですが、プロセスワークの教え方という課題で、学習者自身の背景にあるものによって違う向きになってしまうこと。プロセスワークの世界観を感じ取れるようにトレーニングで導いていく必要があって、これをどうやって実現していくか、というのが課題です。 分かりやすさっていうのは、誰にでも分かるというレベルと、もっと詳しく学びたい人にトレーニングをしてどのように早く磨き上げることができるかという点がある。そのあたりの工夫が、教育というバックグラウンドのせいか、アツイんですよね。 自分はマスターコースを終えて、プロセスワークを教えるようなことになるのはよくないな、と思った。自分が目指しているのは、ユングの続きをやっているミンデルのその先に行くものが何なのかを探究することで、僕はプロセスワークをさらに発展させようと考えている。理論の発展ではなく、実用化させる向きへの発展。みんなの智慧にしたい。 「実用方向への発展なのですね?」
自分がやろうとしていることは、プロセスワークをあらゆる現場で応用しやすいものにすること。応用する時にどんなことが大事なのか、その応用の過程を自分で学習しながら、コアとなる部分は何なのか。いろんな細かい理論が沢山あるけれど、その細かい理論の関連を機能性から考えて整理して削ったりエッセンシャルに残したりする部分は何なのかを見極めていきたい。 段階的に学んでいった方がいいのか、こっちとこっちの話のつながりは何なのか、現場でやるためにはどういう現場で学ぶのが早いのか、といったことを、自分が現場に立って実践して、自分が何をしているのかをもう一度記述する。 そして、自分が何をしたのか、なぜそこでそう考えたのか、それを生み出した背景にあるものは何なのか、というのをたどっていくと、ここからトレーニングが必要なんだ、とか、これが体現されてこないと、いくらこの理論を覚えてもだめなんだ、とか、でも逆にこの理論が入ると、こういう姿勢が生まれてくるんじゃないかとか、そういう順番とか、核になる学びが見えてくる。 プロセスワークを実用化して多くの人の智慧にするために、自分は自分なりにプロセスワークの理論や理屈を組み立て直そうと思っています。アーニーが示しているモデルも、理解しやすいモデルに作り変えたくて、いろんなモデルを作ってきた。 そうすると、僕の言っていることがプロセスワークとして浸透してしまった時、ちゃんとプロセスワークをやっているプロセスワーク研究会の富士見ユキオさんやプロセスワークセンターに対して、「ノリさんが言っていることと違う」と感じる人が出てくると予想される。 それでは、学ぶ人にも混乱が起こるし、持続可能な形でやっている業界の仲間に対しても迷惑をかけると思ったので、「違うものです」と、名前をつけたのが、コミュニティファシリテーションです。 ![]() |